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zoom RSS 【読書メモ】『中国化する日本』

<<   作成日時 : 2012/04/09 08:11   >>

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與那覇潤『中国化する日本』(文藝春秋、2011年)読了。

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これは「日本はこのままだと中国の支配下に入っちゃうぞ」とか、「中国みたいな社会になっちゃうぞ」とかいう内容の本では、まったくありません。
中国の宋代の社会システムと比較しながら、日本の歴史について論じた本です。
先日、日本史学科卒の先輩から「すごく面白い本がある」と大推薦してもらい、「僕は歴史の知識が全然足りないから、勉強のためにも読もう」と思って読みました。

先輩の言葉どおり、ものすごく面白い本でした。
著者の與那覇さんは、僕よりたった1つ年上なだけですが、非常に広い知識と深い洞察を持ち、しかも自分の言葉にしっかり落とし込んで分かりやすく教えてくれます。
たいへん勉強になりました。
カリスマ予備校講師の授業本みたいで読みやすいですし、今後の日本社会を考えるうえでもためになりますし、オススメです。

ただ、「中国化する日本」という題名は、過剰にセンセーショナル(それを狙ったのでしょうが)なだけでなく、内容と照らし合わせても、最適なものではないかも知れません。
むしろ「中国化しそこなった日本」か、「江戸時代 v.s. 中国化」とかにしたほうが、内容に合っていたのでは。

以下、僕なりに、序盤中心にまとめてみます。
完全に受け売りですし、ところどころ、僕の知識のまったく足りない部分はまるっと引用しています。
よく分からないまま写しただけの箇所もありますんで、僕のせいで間違った記述になってしまってたらごめんなさい。

  *

與那覇さんはまず、2011年の、アメリカのオバマ政権の行き詰まりや日本の民主党政権の行き詰まりから話を始めています。
オバマ政権も民主党政権も、「まったく新しいすばらしい社会」の始まりではないかと期待させておきながら、フタを開けてみるとどうにもうまくいっていない。
そんな現在の状況は、冷戦が終わったとき(1989年)の「まったく新しいすばらしい社会」ができるのではないかという期待と、しかし結局そんなにうまい具合にはいかなかったという失望に、非常によく似ている、と與那覇さんは指摘します。
「歴史の終わり」とまで言われた1989年以降の、ポスト冷戦の世界のあり方、いわゆる「新世界秩序」とは、次のようなものです。

  @ 主権国家を超えた全世界的な政治理念(たとえば、自分の国の利益のためだけに戦争をしてはならない。世界じゅうから認められる普遍的な正しさを持った戦争しかダメ)
  A 平等(社会主義的な、国家の再配分)よりも、自由(グローバルな市場競争)を優先

これらはそれぞれ、それ自体は良いことのように思われますが、
@はアメリカによる強権的一極支配を生み、
Aは格差の拡大を生みました。

ではどうすればよいのか。
じつは、「西洋近代」が「歴史」の終点でたどり着いたとされる究極の「新世界秩序」など、1000年以上前に中国で作り出されていたのだ、と與那覇さんは言います。
だから、「西洋近代」こそ最も進んだ社会だなどという偏見を捨て、中国をベースに歴史を捉え直そう、というわけです。

與那覇さんが言うには(というか、歴史学ではいまや常識なのだそうですが)、現在にまで至る中国社会のベースを作ったのは(そして「新世界秩序」を圧倒的に早く先取りしていたのは)、西暦960年に建国された宋です。
宋では、地方の反乱と分裂から滅亡した唐を反面教師とし、中央集権的な「中華文明」を確立すべく、画期的な社会システムが組まれました。
その特徴は、

  @ 皇帝による独裁政治 → 政治の秩序を一極支配によって維持する
  A 貴族制度の全廃 → 経済・社会を自由化して国を豊かにする

具体的には、儒教にのっとった全国統一試験「科挙」でエリートを集め皇帝の子飼いにし、
採用した役人を自分の出身地以外の地方に送る「郡県制」を敷いて、トップダウン式の中央集権制を実現。
また、税を農作物で納めるのではなく、農民が市場で作物を売って貨幣に替え、そのお金を納めるようにさせたので、これによって自由市場ベースの経済発展が始まります(同時に、地元の領民を囲い込んだ貴族たちの荘園経営を破綻させることができたわけです)。

このシステム、「新世界秩序」の@とAにそっくりなわけで、もちろん「新世界秩序」の場合と同じような弊害も生まれます。
@に関しては、皇帝の決めたことには絶対に逆らえず、政治的な自由が制限されますし、
経済的・社会的自由を与えてくれるAも、自由競争に負けた者には過酷で、格差はなくなりません。
しかし中国の人は、ユニークなやり方で、これらの副作用をできるだけ押さえ込みます。

Aの弊害への保険(自由競争の負け組の救済策)は、「宗族」という父系血縁のネットワーク。
父方の先祖が同じであれば、どこにいて何の仕事をしている人であっても、お互い助け合って餓えないようにします。
@の弊害への保険(皇帝がたまたま極悪な奴で理不尽な圧政を敷いたとき、それをコントロールする術)は、「朱子学」。
儒教から抽出され体系化された朱子学を、全世界的な善を定める普遍的な理念・理想として国家の原理に据えることで、「あなたはいちばん偉い皇帝なんだから、朱子学にもとるような悪いことをしちゃいかんよ」と、皇帝を制御できるわけです。
なるほどですね。

こういう高度なシステムが、宋代から中国で作られた(そして「中華思想」として中国人の間でずっと受け継がれてきた)のに対し、
日本は宋から学び損ねた、と與那覇さんは言います。
なぜかというと、科挙を導入できず、宋のシステムを輸入できなかったからです。
なぜ科挙を導入できなかったのか。
当時の日本では、紙と印刷技術が不十分だったからです。
(逆に、当時それほどの製紙術と印刷術を持っていたのは世界最先進国たる中国だけ)

しかし、貨幣を持った中国商人が西日本へやって来て、日宋貿易が始まると、日本人の目の前に、貨幣経済と市場自由化の魅力がちらつきます。
中国銭を用いた商業は、日本人にとってはびっくりするくらいのビジネスチャンスです。
天皇もこれに興味を持ちます。
しかし、天皇である限り、しきたりにがんじがらめにされ、異国人なんかと直接コンタクトをとることは許されません。
そこで若い奴に皇位をさっさと譲り、自分は好き勝手に中国との貿易に手を伸ばそう、というふうにして「院政」が成立した(1086年)のだそうです。
(ちなみに、この院政の始まりが日本の中世の始まりであり、日本の中世とは「中国銭の時代」なのだそうです)
こうして、後白河法皇と平清盛が宋銭を日本に流入させ、農業&物々交換の古代経済を一新し、荘園制に立脚した既存の貴族から実権を奪います。

ところが、これに対して猛反発する人たちがいます。
昔ながらの荘園経営をする貴族や寺社の既得権益勢力と、
自由競争に勝ち残れるような主要産品を持たない坂東武者たちです。
彼らは自由経済・革新派の平家一門を滅ぼし、中国銭を禁止して物々交換に戻します。
その結果できたのが鎌倉幕府なのですが、そういう意味で、源氏は「貴族の世を終わらせて武士の世を作った」わけではなく、貴族のやっていた昔ながらの地元密着型物々交換経済「荘園制」を受け継いだわけです。

與那覇さんは、(A1)革新派の平家と(B1)保守反動の源氏に、日本における(A)「中国化」と(B)「反中国化」の対立の雛形を見ます。
そして、日本ではときどき(A)「中国化」(いまでいうグローバル化)を行おうとする革新派の波が来るものの、結局(B)「反中国化」が勝ってしまう、という歴史が繰り返されてきた、と言います。

モンゴル帝国が、銀を世界通貨とする自由貿易圏を拡大しようとして日本に攻めてきたとき(元寇)も、鎌倉幕府は幸か不幸かこれを斥けます。
(モンゴル帝国はかなりの程度、現地の人に任せる間接統治制だったため、モンゴルの経済圏に入ってもそれまでの日本の政治体制が消滅させられるようなことはなかっただろうといいます)

しかしこの頃、中国から日本に、大量の銅銭が流入します。
というのも、モンゴル国内では、通貨である銀の不足のため「交鈔」という紙幣が発行されていたのですが、この紙幣を普及させるために、銅銭を国内で使用することが禁じられ、そのためモンゴルの支配下に入っていた中国人たちが、それまで貯め込んでいた銅銭を対外貿易に使ったのです。
銅銭の流入を受け、鎌倉末期の日本では、年貢の銭納化が進むなど、急激な経済革新が起こります。
(A2)北条得宗家の私的使用人である「御内人」が、貨幣と商業を基盤に勢力を拡大。
(B2)荘園を持つ鎌倉幕府の公的「御家人」は、これを押さえ込もうとする。
これも(A)「中国化」と(B)「反中国化」の対立ですね。

この対立で混乱した鎌倉幕府を1333年に倒したのが、後醍醐天皇。
彼は楠木正成らの悪党をはじめとした漂泊民や商工業者を組織して、農業を基盤とする武家勢力を打倒し、
また、公家社会の家格や先例を無視して、自分の意のままに人事や政治を刷新します。
この「建武の新政」は、宋代の皇帝専制を日本に導入しようとしたものであり、(A)「中国化」です。

しかし、彼は北条氏を倒すために、鎌倉幕府の御家人の筆頭であった、(B)「反中国化」勢力の足利尊氏の助力を仰いでしまったのが仇となり、後に裏切られ、吉野に追放されてしまいます。

……といった感じで、話は室町時代、戦国時代、江戸時代と続いてゆき、最後には2011年まで来てくれるのですが、
この感じでまとめていったら、ものすごい分量になってしまいますので、今日はこの辺で。

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