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zoom RSS 安部公房の新刊

<<   作成日時 : 2013/01/22 14:37   >>

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今日(1月22日)は、安部公房の没後20年の命日に当たります。

安部といえば、昨年、最初期の未発表小説「天使」が発見され、安部の読者の間で話題になりましたが、
その「天使」と、全集にしか入っていなかった初期の短編を合わせた、
『(霊媒の話より)題未定 安部公房初期短編集』
が、今日発売となりました。

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扉を開くと――

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カバーを外すと、こうなっていて――

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これは、ちょっと全集の装丁(↓)に似ているという、心憎いつくりになっています。

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今回、他の短編集に入っていない最初期の小説を、「天使」と合わせて一冊にしてもらったのは、とてもありがたいです。
読みやすくなりましたし、なにより、心置きなく書き込みができるからです。
早速、書き込みをしながら読み通しました。

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今回、すべて再読して(ほとんどのものが、全集を発売と同時に買って読んだとき以来なので、15年ぶりくらいですね)の感想は、
「20歳前後で大したもんだ」と、「さすがに、習作や不完全な(未完だったり原稿の散逸があったりする)小説ばかり300ページ読むのはキツい」とが、半々といったところです。

表題作の「(霊媒の話より)題未定」は、安部がまだ十代のときの作品ですが、単行本で70ページ以上の分量を、破綻なく、かなり読みやすく、小説として書くことができています。
内容としても、後年の諸作品につながるモチーフがたくさん出てきていて、興味深いです。
たとえば、霊媒のふりをして他人の家に上がり込む詐欺は、後年の『幽霊はここにいる』を思わせますし、家のモチーフは「赤い繭」、また、以下の引用箇所など、まさに『砂の女』や『燃えつきた地図』の主題です。

俺達の様に目立ってつらい事や、苦しい事は無いかも知れないが、朝から晩迄来る日も来る日も同じ事を休み無くやって居なければならない。本当にこの「休み無しに」と云うのはつらい事だよ。多分お前には我慢出来まいと思うね。[35ページ]


そして、この最初の小説からして、語りの意識が非常に強いうえに、「おいぼれ作家」[43ページ]というフィクショナルな語り手を置いている点には、しっかり注目するべきでしょう。

新発見小説「天使」は、初めての一人称小説(主人公=語り手)だという点で、やはり相当重要です。
また、一人称をとったことで、小説の地の文に、抽象的・観念的な用語を導入することができています。
初期の安部は、自分の書きたい小説を可能にする文体を模索し、また、文体の模索の中から、自分の理想の小説の像を新しく作り上げてゆく、という弁証法の中にいたわけで、その試行錯誤が、この一冊の短編集から生々しく感じられます。
「天使」は未完の作品だと思いまし、この系列の作品を安部は数年で見限ってゆくことになりますが、僕はこの短編集の中では、いちばん好きかも知れません。

どなたかがもう分析して同じような結論を述べておられるかも知れませんが、僕なりに「天使」について考えてみますと、
主人公=書き手(「前にも書いた様に」[100])の「私」は、
この日のうちに精神病院に連れ戻され(「あの時から、天使としての自我がぐらついて来た」[108]、「どっちみち再び現世の存在に還らねばならぬ」[109])
「天使」たる資格を失った後、
「偽天使」の落とした「紙と鉛筆」を使って、この日一日の経験を綴り始め(「後になって見れば、結局随分役に立って呉れた」[110])
それがこの「天使」というテキストになる。
――という展開をたどるはずだったのだと思います。

他にも、「愛」「笑い」「幸福」といった、初期独特のモチーフ群が鮮明に浮上し、『終りし道の標べに』や『壁』について考えるための補助線が、僕の中でくっきりしてきたのは、この短編集が出版されたおかげだと思います。
一冊にまとまってくれなかったら、なかなか読み直しがはかどらなかったと思いますので。

計画としては、初期の安部に絶大な影響を与えたリルケの『マルテの手記』を読み返し、また、最初期の安部の創作の中心だった詩を読み返して、あと、できればハイデガーをおさらいして、初期安部についての考えをまとめてゆきたいのですが、
以前から苦手だった『マルテの手記』は、いま読んでもやっぱり苦手で、なかなか読み進められません……。

まあ、ぼちぼちやっていきます。
今年もよろしくお願いいたします。

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