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zoom RSS 『言語にとって美とはなにか』 第T章 2

<<   作成日時 : 2013/06/17 20:14   >>

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テキスト:『定本 言語にとって美とはなにかI』角川ソフィア文庫、2001年
第T章 言語の本質〔23-71〕
2 進化の特性〔40-56〕

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■■言語の進化について、どのように論を進めるか〔40〕
▼言語の発生についての考察は「1」で行った。
従来の言語発生論……(1) ちがった色の絵具でぬられた (2) 二枚の画布
・(1)→ バラバラなモチーフによる雑多な「個体の理論」
・(2)→ (A)言語非実用説(B)言語実用説の通俗的対立 = それぞれの言語観の個性的なちがいをこえたなにか
→ (2)を本質論によって止揚し、自己表出概念によって(1)を包括した。
▼次は、言語がどのように進化するか、その過程を考察する段階になる。
→ すでに(A)と(B)との通俗的対立は本質論によって止揚してあるので、 概念を統一して「個体の理論」をひとつの本質的な理論へとまとめてやればよい

  ↓ 言語進化の過程を扱った、従来の代表的な議論をとりあげる。

※※[言語の進化の前半……言語が現実から離れる過程=まだ発生の延長]〔40-49〕※※

■■「個体の理論」その1:カッシーラー 〔40-42〕
言語が現実から離れてゆく過程を3段階に。
@ 擬態態的段階(擬声的、擬音的)
・擬声によって対象を表す。対象から得られた感性的なものを用いる。
・まだ音声の意識は現実の対象からうまく離れておらず、主体の意識ははっきり分節されていない。
A 類推的段階
・音声形式と事象の関係形式とのあいだに類推が成り立つ。
・現実を意識化し、分節できるようになってきている。
B 象徴的段階(比喩的)
・対象となる現実の世界が立体的にとらえられる。
・身体と空間との間に象徴的な対応が生ずる。

◎ この説の当否を実証的に検証することは困難だが、我々の経験と照らして説得力はあるので、無意味でもないし架空でもないといえる。
   ↓ しかし、
◎ 何かの原理をもとにした理論のほうが、言語進化を明確にあとづけるためには参考になる。
   ↓

■■「個体の理論」その2:マリノウスキー 〔42-45〕
オグデン=リチャーズの三角形を原理として適用
→ その三角形がいかにして成立するに至るか、という説明によって言語の進化を理論化。
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@ 第一段階
・表出は場と結合した音声反応でしかない。
・思考活動を含まず、象徴ではない。
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A 第二段階
・分節した言語が始まりかける。
・場を分節し、対象を指示し、働きかける。
・音声は指示物から離れたところでは使われないので、象徴ではない。
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B 第三段階……オグデン=リチャーズの三角形が成立。→ 言語の基本となる3つの使い方ができるようになる。
・行動的言語 (b)指示物を操るための言語
・物語的言語 (a)シンボルとしての言語
・儀式的言語 (a)シンボルとしての言語
→ 言語はある場合には(b)実用的(行動的)に、ある場合には(a)物語的・儀式的に用いられる、とマリノウスキーは考える。
   ↓
◎ この区別のつけ方が吉本との違い。
マリノウスキーの考え方では、(a)としての言語が先か、(b)としての言語が先かという、(A)言語非実用説(B)言語実用説との通俗的対立をさけられない。
言語の本質は、行動的/物語的/儀式的というふうにもともとわけられるものではない
いかなる場合も(a)自己表出(対自)(b)指示表出[じつはここで初出〔45〕](対他)をもっている。
(b)指示表出の面を拡大 ―― まず対他(指示表出)であることによって対自(自己表出)にもなる → 行動的言語があらわれる。
(a)自己表出の面を拡大 ―― まず対自(自己表出)であることによって対他(指示表出)にもなる → 物語的・儀式的言語があらわれる。

■■吉本自身による言語の発達(前半)の説明〔46-47〕
・マリノウスキー(オグデン=リチャーズ)を参考にしたと思しき図を用いて説明。
・言語は意識の(b)指示表出であることによって(a)自己表出も行うか、(a)自己表出であることによって(b)指示表出も行うものとしてあらわれる。→ そのようなものとして原理的に説明。
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(1) 無言語原始人の音声段階
[※ これは前節言語の発生の図の@と同じ]
・現実の対象世界を分節して意識できず、漠然とした反射的音声を発する。
 → 現実の対象世界(自然)全体をまっすぐに指示。自己表出による垂直方向の屈折がない。
・意識の内部も分節されておらず、まだ意識とはよびえないさまざまな原感情が、音声に含まれる。
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(2) 移行段階
・音声がしだいに意識の自己表出として発せられるようになる。
・まだ対象を離れず、その場で特定の対象を分節し、指示し、働きかける。
    ↓ そうすることで、だんだんと、
・音声が、指示されるものの象徴になってゆく。
    ↓ 類概念を象徴する間接性を手に入れることで、
・より広い対象を、より精緻に指示できるようになる。
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(3) 言語としての最小条件のそろう段階
[※ これも前節言語の発生の図のBと同じ]
・眼のまえに対象をみていなくても、意識として自発的に指示表出できる ―― 有節音声によって、対象の概念を思い浮かべさせ、対象の像を指示する。

※ ここまでは、「1」で見たのとほぼ同じことであり、言語の進化の前半にすぎない。

■■(3)のような段階はどうして可能になるのか、(2)の移行はいかに行われるのか〔47-48〕
人間の意識がその本質力のみちをひらかれる過程〔49〕
※ 言語の発生の話から言語の進化の話へ。
・意識が自己表出によって音声として外化される。
   ↓
・外化された音声が意識に反作用を及ぼす。
   ↓
・意識が強化される。
   ↓
・意識的な体験のつみかさねが、脳髄や神経系の構造を整えてゆく。
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▼エンゲルス批判……思想的に大切な問題。
・労働と言語が、人間の身体の生理感覚器官を強化した、というだけでは、人間の意識の発達を説明するのに不十分。
・生理感覚器官の発達(→ 労働)と意識の発達(→ 文学、芸術)は、別のものとしてとらえるべき。

■■有節音が言語化された(自己表出から指示表出が生じた)結果〔49〕
▼言語は対象と一義的な関係[直接的な一対一対応]をもたなくなる。
・言語によって、対象そのものを表すとともに、抽出された類概念も表すことができるようになった。
  ↓
・対象そのものを、言語によって具体的にとらえつくせない、という意識が生まれる。
  ↓
・それでも対象そのものに言語によって迫ろうとして、さまざまな言い換えを生む。
▼どのような状況で言葉を発しても、類概念を指示することはできるようになる。
  ↓
・さらに自己表出と意識への反作用をつみかさねる。
  ↓
・意識の強化、言語の進化:
―― とらえることのできる対象が、具体性のレベルでも観念のレベルでも増え、とらえ方が精緻になる。
◎ 自己表出のつみかさねと意識への反作用が、指示できる類概念を広げ、詳細にする。
◎ 自己表出のつみかさなりが指示表出の広がりを生み、言語の水準が高まってゆく。

  ↓ このような言語進化の論理(言語の抽象化の過程)を、言語学を参照しつつ検証。

※※[言語の進化の後半……言語の抽象化の過程、言語の水準の高まり]〔50-〕※※

■■「個体の論理」その3:S・I・ハヤカワ〔50〕
・対象に与えた名称が、より抽象的な名称を生む。……言語は知覚そのものでも対象そのものでもない。
■■「個体の論理」その4:コーズィブスキィ〔51〕
・具体的対象→記述→推論→次の推論…… 対象にたいする主体の関わり方が変わってゆくことで、言語が抽象性の幅を広げる。

   ↓
◎ これらの論では、言語の水準の変化(進化)の複雑なメカニズムをとらえられない。
◎ 抽象的類概念の指示(指示表出)と、自己表出とを、関連づけて論じねばならない。(本質論)
   ↓

■■類概念の指示(指示表出)を、自己表出とひとつのこととして論ずる。〔52〕
・人間が自己表出できるようになり、意識が外化される。
  ↓ 対象そのものでも知覚そのものでもない別のレベルを、言語がひらく。
・人間は、自然界の中に即自的に存在することをやめ、別のレベルの存在として自分をとらえる。
  ↓
・出会った対象を名辞でとらえ、指示し、類概念として把握できるようになる。(指示表出)

  ↓ このように、

■■ある時代のひとつの社会の言語の水準は、 (a)自己表出(b)指示表出によって作られる。〔52-56〕
(a)自己表出:人間が対象世界と関係しようとする意識の本質。
・内面を外化し、それが意識に反作用するので、意識を強化する。→ 歴史的なつみかさなり。
・言語表現を自己表出の面で強めたものが、文学表現。
(b)指示表出:ふつうのとりかわされるコトバ。→ 現在。
・ある時代の社会、生産体系、人間の関係、そこから生み出される幻想によって規定される。
・表出する主体の生きる環境からも、決定的に影響を受ける。
・言語表現を指示表出の面で強めたものが、社会の各階層の間で交わされる生活語。
◎両面がひとつひとつの表現の中に同居。
文学作品には、作者が優れているか凡庸かに関わらず、いつもこの両面がある。
・(a)……永続性、類としての同一性、つみかさなり
・(b)……時代性、個性としての差別性、作者の人生

▼移り変わってゆくこの水準を、ある時代において取り出してみるとき、(a)自己表出が強く出る文学表現と、(b)指示表出が強く出る生活語を、同じ尺度で見ることはできない。
……(a)と(b)のどちらにアクセントを置いているかによって、語彙すら違っているから。

■■言語の水準は、どのように変化(進化)するか。
・自己表出が強くなる。
   ↓
・指示できる対象(類概念がカバーする範囲)が広がる。
   ↓
・自己表出がまたつみかさなり、強くなる。
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