安部公房『砂の女』あらすじの表(4)第三章~2つの文書

安部公房『砂の女』
小説に書かれていることを、表のように整理しました。
あらすじとしてご参照ください。

【2020年5月9日追記】
この作業にもとづいた論文「小説という名の実験―安部公房『砂の女』論」を、文芸批評・文学研究の雑誌『文学+』第2号(凡庸の会、2020年)に掲載しています。
当該雑誌は1200円+送料です。下記フォームよりご注文ください(在庫切れの場合はご容赦ください)。
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万が一、注文してから1週間以上、確認の連絡などが来なかった場合は、bonyou.org@gmail.comにご連絡ください。
【追記終わり】

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■■■ テキストの性格 ■■■
【【章】】
【節】
● 時間
▼ 出来事や行動。
▽ 出来事や行動以外。思考や過去の話など。
※ 備考。

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画像


■■■ 本編 (承前) ■■■

【【第三章】】

  【28】

● 1961年(昭和36年)10月

▼ 鴉をとらえるための罠《希望》を作る。
▽ 捕えた鴉に手紙を運ばせたい。
▼ 脱出失敗後は冬眠のように暮らし、穴のなかの生活の反復に融けこんで、部落の警戒が解けるのを待っている。
▼ 女はラジオを買うために内職。
▼ 男は手仕事にせいを出す。(※ 男は工夫が好き)
▼ 新聞も読まなくなる。

▽ 「孤独地獄」という銅版画の写真を想起。
初めて見たときにはその意味がわからなかったが、いまならはっきり理解できる。(※ 現代の孤独を再帰的に認識している)
孤独とは、幻を求めて満たされない、渇きのこと。
・現代人はその渇きのせいで、生理的な必要十分のリズムに満足できず、過剰なものを付け加える。
・それでも渇きは満たされないので、過剰な反復がエスカレートする。
・やがて中毒症状を呈し、過剰さから逃れるため、単純な反復が支配する砂丘地帯に思いを寄せたりもする。
男は、現状の単純な反復にささやかな充足を感じている。
そのまま、現代の孤独から恢癒することも可能かもしれない。

● 1961年(昭和36年)10月のある朝

▼ 漫画雑誌に大笑いしてしまう。
▽ 内側からの腐蝕に気づく。
こんなことで脱出できるのか、という危機感。
しかも、まだ脱出の望みを捨てていない自分は女を騙している、という罪悪感もある。

▼ 外に出て、空の霧の渦に、なぜ自分がこんな目にあわなければならないのかと問いかける。
▽ 「メビウスの輪」の声をした自分自身との対話。
自分の置かれた状況を、自分の固有性として受け入れよ、と声は命ずる。
男は「もっとましな存在理由」を求める。(※ 疎外論)
声は、砂の「流動」に心ひかれていたはずの男が存在理由(定着)を求めるのは欺瞞ではないか、と指摘する。
男は、砂には「流動」だけでなく「定着」の側面もあるのだと言う。
※ 「流動」と「定着」をめぐるこのあたりの問題が解決されない限り、男の疎外感は解消されないはず。

▼ 《希望》は鴉を捕えていない。
▼ 家に入る。

  【29】

▼ 我慢ならない衝動を感じ、女の内職のビーズをたたきとす。
▼ 女との会話。
部落が砂をコンクリートに混ぜて売っていることがわかる。
男は部落を非難。
女はひややかに「他人のことなんか、どうだって!」と言う。
▽ 部落と外の世界との関係の認識を、自分の位置づけも含めて更新。
敵と味方が分らなくなり、心細い。
▼ 植物を植えようと提案。(※ 「定着」への傾斜)

  【30】

● 1961年(昭和36年)10月のある日

▽ 月の表面から青酸カリを連想。
自殺のおそれに骨がふるえる。
地上への嫉妬から自殺してしまうかもしれない。
たまには地上へ出て散歩でもしたい。

▼ 地上へ出たいと女にかけあう。
▼ 部落との交渉。
▼ 部落のみなが砂の壁の上から見下ろしているところで女と性交すれば、地上へ出る権利を認めてもよい、と言われる。
女は受けつけない。
男は、儀式として受け入れようと思う。
▼ 女を襲い、外へ引きずり出す。
※ 共同体への同化と隷属を遂げそうになる。他のメンバーの視点で自分を見る。
▼ 女の攻撃を受け、うちのめされる。
▼ 部落の者たちは去る。
▼ 男は自分を完全に失ったようになる。

  【31】

● 1961年(昭和36年)10月後半のある朝

▼ 《希望》の餌をつけかえるとき点検すると、水が溜まっている。
▽ 砂の毛管現象。
《希望》が水分の循環を断ち切って、貯水装置になった。
※ 試行錯誤の成果の偶然性。
▼ 男は有頂天になり、はしゃぐ。
▽ 世界観の逆転。
穴の底にいながら、高い塔にのぼったような気分。
すでに穴の外にいるも同然。
▽ これまでの自分の近視性を再帰的に認識。
▽ 同僚や妻への嫉妬からも自由に。
▽ 「もう一人の自分をひろい出してきた」――生まれ変わったようなもの。

● 1961年(昭和36年)10月後半

▼ 男は溜水装置を研究。(※ 主体性)
▼ 女は男が何を考えているか分らないが、満足。
※ この時点で小説の語り手(事件をテキスト化する主体)は、女の内面まで見通して語れるようになっている。
▼ 男にとってもラジオが目標になり、女の内職に積極的な態度を示しはじめる。

● 1961年(昭和36年)11月 ~ 冬 ~ 1962年(昭和37年)春

● 1962年(昭和37年)3月はじめ

▼ ラジオが手に入る。

● 1962年(昭和37年)3月おわり

▼ 女が妊娠する。

● 1962年(昭和37年)5月おわりのある日

▼ 女の下半身から出血。子宮外妊娠らしい。
▼ 女は穴から出され、病院へ。
▼ 縄梯子が残されている。
▼ 男は穴の外へ出る。空も海もにごって見える。
▼ 穴の底にある自分の影を見る。
▼ こわれた溜水装置を修理するため、穴の中に戻る。
▼ 装置の水に手をひたす。

▽ 「往復切符」の余白――自由。
▽ 溜水装置のことを部落の者に話したい――他人との通路。

■■■ 「失踪に関する届出の催告」 ■■■

不在者=仁木順平(昭和2年3月7日生)
仁木しのからの失踪宣告の申立。
昭和37年9月21までに生存の届出をするように催告。
昭和37年2月18日
家庭裁判所

■■■ 「審判」 ■■■

申立人=仁木しの
不在者=仁木順平(昭和2年3月7日生)
昭和30年8月18日以来7年以上生死が分らない。
仁木順平を失踪者とする。
昭和37年10月5日
家庭裁判所
家事審判官