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zoom RSS 安部公房「デンドロカカリヤ」初出版 内容の整理

<<   作成日時 : 2015/02/06 18:00   >>

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安部公房「デンドロカカリヤ」初出版
雑誌「表現」1949年8月に発表

※ あらすじやの内容の解説は、「安部公房「デンドロカカリヤ」の改稿について」で文章にしてあります。
※ 「『砂の女』と小説の地平――安部公房の小説について――」では、「デンドロカカリヤ」と『砂の女』とを比較して論じています。

画像


■■登場人物■■

「ぼく」:語り手。(事件をテキスト化する主体)
「君」:語り手の語りかける相手。
コモン君:「ぼく」の友達。「君」の友達でもあるらしい。(事件の主人公)
K嬢:コモン君に手紙を送った女性。
大男:K嬢の交際相手。「あの人」とも呼ばれる。
黒服:黒い詰襟の服を着たずんぐりした男。H植物園の園長。コモン君にはアルピイエと呼ばれる。
受付の男:コモン君のアパートの近くにある図書館の受付の男。
助手:H植物園の助手。園長からは「M君」と呼ばれる。

■■場面の整理■■

●内容で分けた場面●
【行空きで分けた節】 安部公房全集第2巻のページ数と段
▼▼ 語り手の「ぼく」と「君」との間の出来事。
▼ 主人公コモン君のまわりの出来事。
▽ 出来事以外の内容。
※ 備考。

●第1場面●

  【1】 234上
▼▼ 「ぼく」が「君」に語りかけている。
▽ 植物病の前駆症状@――春に道を歩きながら石を蹴ると、心の中に植物のようなものが生えてくる。

  【2】 234上
▼▼ 「ぼく」が「君」に語りかけている。
▽ 植物病の前駆症状A――空を見上げると、眼から天へ管が延び、天が眼へ流れこむ。

  【3】 234上
▼▼ 「ぼく」が「君」に語りかけている。
▽ 植物病の前駆症状B――眼を閉じて背のびして両手を拡げると、指の一本一本が太陽を感じる。

  【4】 234下
▼▼ 「ぼく」が「君」に語りかけている。
▽ 不安のせいで人間が植物になる病気が蔓延しはじめている。
▽ 話しあい、力を合わせなければならない。

  【5】 234下
▼▼ 「ぼく」が「君」に語りかけている。
▽ 植物病にかかっている人たちは、みんな自分だけの病気だと思い、恥ずかしがって他人に話さず、孤立している。
・「君」も、病気による孤立の「被害者」である。
・しかし、「君」を孤立させる「加害者」は、「存在せずに、君をとりまき、君の顔から滲みこんでくるあの君自身」である。
▽ 通常、人間の顔は「フィルター」であり、「顔の凹凸に合わせて、原存在が意識に固定される」。
▽ 植物になる病気とは、「あのぼくとこのぼくとが入れちがいになって、顔はあべこべの裏返しになり、意識が絶えず顔の向側へおっこちてしまう」ことである。
▼▼ 「君」が植物病の発作を起こす。「ぼく」は、「君」の顔がひっくりかえらないように助けてやる。
▽ 「ぼく」の考えによると植物病は、病気というよりも、20世紀の「一つの世界」である。
▽ みんなそのことを知りすぎているから、余計に知らないふりをする。
▽ まだ植物になってはいけない。
※ 「顔」と「植物病」については、
拙稿「安部公房「デンドロカカリヤ」における「顔」と「植物病」」 http://42286268.at.webry.info/201502/article_6.html
で解説してあるので、そちらを参照のこと。

  【6】 235上
▼▼ 「ぼく」が「君」に語りかけている。
▽ 植物への変形を、個人の病気とみなすのではなく、世の中で広く起こっている事実だとみんなで認めねばならない。
▼▼ 「君」が恥じらいに顔を赧くしたのを、「ぼく」は見とがめる。
▽ 顔とは「原存在が意識に流れこむフィルター」である。
▽ 笑顔や怒った顔は、このフィルターを、一般的な表情のコードに従ってゆがめてみせるような、表情の類型である。
▽ 恥じらいの顔は、一般的な表情のコードに合わせて作れるものではなく、本人の固有の顔自体に起こる出来事である。
▽ 「ぼく」は、これからの話を、「君」の恥じらいの顔(固有の表情)に向かって話すのは、「馬鹿気ているか、あるいは恐ろしい」と思う。
▽ これからの話は、笑顔という「既知のマスク」(一般的な表情のコードに合わせて作られた、表情の類型)に向かってでなければ、安心して話せない。
※ コモン君の話は真実だが、あまりに荒唐無稽であり、また恐怖を与えるものである。
「君」がもし真面目な表情でコモン君の話を聞き始めたとしたら、あまりの荒唐無稽さに途中で不信感を抱くか、あるいはあまりの恐怖に途中で聞く気をなくすかも知れない。
「デンドロカカリヤ」初出版の語り手の「ぼく」は、「君」の表情を見ながら語っているので、「君」が不信感や話を聞けなくなるほどの恐怖を抱くとき、それらの感情を表情から読み取るだろう。
そうすると、「ぼく」は安心して話すことができなくなってしまう。
だから「ぼく」からすれば、「君」にはとりあえず「笑いという、既知のマスク」をつけて、話を聞き始めてもらわなければならないのである。
▽ これから話すのは以下のような話である。
・意識が、不幸で孤独な意識の中から、顔の志向性を逆に辿って、現存在に還元された話。
・具体的には、コモン君がデンドロカカリヤになって、非情な植物学者に採集され、植物園の標本になってしまったという話。
・それは奇妙だが、場合によっては決して人事ではすまされぬ話である。

●第2場面●

  【7】 235下
▼▼ 「ぼく」はコモン君がデンドロカカリヤになった話を始める。

  【8】 235下
▼▼ 「ぼく」は「君」に、コモン君のことを「名前のとおり」に想像するよう促す。
▽ コモン君は「ぼく」の友達だった。
▽ コモン君は「君」の友人でもあったらしい。

  【9】 236上
▼ 春先、コモン君は路端の石を蹴る。(植物病の前駆症状@)
▼ コモン君は、なぜ石を蹴ったのか分からなくなる。
※ 近代の都市生活者としての「孤独」が昂じて、日常的な対象意識の自明性が失われたということだろう。
▼ 意識の断層が鏡になり、そこに自分が映っているのが見える。
※ 「意識の断層」とは、
・自分の行為をひとつの連続したまとまりとして「意識」することができなくなり、
・石を蹴りながら歩くという普段なら自明の行為がバラバラに解体され、
・その切断面が「断層」という形で見えた(ような気がした)、
ということだろう。
※ 「不安」から、自己意識が無限に増殖する。
▼ どこかへ引きさらわれてゆく感じをおぼえる。
▼ 植物病の前駆症状C――心の中で植物のようなものが生えてくる。
生理的な墜落感と、心持良い不快感。
▼ 植物病の前駆症状D――地球が鳴り、地球の引力を知覚する。
▼ 足が地面にめり込み、植物になっている。
▼ 顔が裏返しになっていることに気づく。
▼ なんとか顔をもとに戻すと、すべてがもとどおりになる。
▼ 何ものかから見られていることを感じるが、なにげないふりをしてごまかそうとする。

●第3場面●

  【10】 237上
▼▼ 「君」が「変な顔」をしているのを見とがめ、「ぼく」はコモン君の話を中断する。
▼▼ 「ぼく」は「君」の仲間であると述べる。

  【11】 237上
▼▼ 「ぼく」はコモン君の話を再開する。

●第4場面●

  【12】 237上
▼ コモン君の身には1年間何も起こらなかったが、翌年の春に植物病が再発することになる。

  【13】 237下
▼ コモン君はK嬢からの手紙を受け取る。

  【14】 237下
▼ K嬢からの手紙。
▽ K嬢はコモン君に愛を告白。
▽ K嬢はコモン君に、「あの人」から一緒に逃げようと提案する。
▽ 翌日の3時に「こないだの店」で会う約束。

  【15】 238上
▼ コモン君はK嬢からの手紙に感動する。
▼ コモン君は会社を辞めてK嬢と逃げる決心をする。
▼ コモン君はアパートの部屋を友達に譲ることにする。

  【16】 238下
▼ コモン君は「ぼく」にアパートの部屋を譲った。

  【17】 238下
▼ 翌朝コモン君は、K嬢と会った後に一緒にN市へ行くことに決め、アパートを出る。
▼ 「ぼく」はアパートの部屋の窓からコモン君を見送る。

●第5場面●

  【18】 238下
▼ 待ち合わせ場所は珈琲舗カンラン。
▼ カンランでK嬢の話を聞いた思い出を反芻する。
▼ 幸福な気持ちでK嬢を待つ。
▼▼ 「ぼく」はその時間を、コモン君の一生で一番幸福な瞬間だったと考える。

  【19】 239下
▼ コモン君には物が大きく見える。

  【20】 239下
▼ 2時10分、大男の「あの人」がカンランに入ってくる。
▼ 大男はコモン君の前に掛け、コモン君を見つめる。
▼ 妙な論理が植物のように生えてくる。(植物病の前駆症状C)
▼ 緑化週間のポスターを見て、1年前に植物になりかけたことを思い出し、不吉な予感をおぼえる。

  【21】 241上
▼ コモン君は、どんなことがあってもK嬢を大男から守ろうと決意する。
▼ 2時50分、準備をしてK嬢を待つ。
▼ 不安を感じる中、緑化週間のポスターに見入っている。
▼ 思わず空を見上げると、眼から天に管が延び、天が眼の中へ流れ込む。(植物病の前駆症状A)
▼ 指に太陽を感じる。(植物病の前駆症状B)
▼ 地球が鳴る。(植物病の前駆症状C)
▼ 発作が始まる。
▼ 1年前と同じ植物化。
意識の断層に裏返しの顔が映り、全身はほとんど植物に。
▼ 顔を引きはがし、表をむける。

  【22】 242上
▼ 3時半になっており、大男もK嬢もいない。
▼ コモン君は恥じらいと絶望にうちのめされてカンランを出る。
▼ 街を歩くが、自分の自由が不安。

●第6場面●

  【23】 242下
▼ 5時すぎ、道に迷って丘の上の焼跡に出る。
▼ 顔が裏返りそうになるのをなんとか押さえる。
▽ 顔をはがして捨てたら「原・顔」が残るのだろうかと考える。
▽ 植物化とは、外界の一切が自分になり、今まで自分だった管のような部分が植物になることだと考える。
▼ コモン君は植物化を受け入れそうになる。

  【24】 243下
▼ 「デンドロカカリヤだ!」という声とともに、黒い詰襟のずんぐりした男が現われ、植物になったコモン君を海軍ナイフで採集しようとする。
▼ 偶然から、コモン君は人間に戻る。
▼ コモン君は落ちていた男のナイフを拾い、走って帰る。
▼ 黒服の男はコモン君を尾行してきている。

●第7場面●

  【25】 245上
▼ コモン君はアパートに帰って「ぼく」と会うが、事情を話さない。
▼▼ コモン君が「ぼく」に事情を話さなかったことを、「ぼく」は悔しく思う。
▼▼ 「ぼく」はコモン君の事情に気づかなかったことを後悔する。
▼ 翌朝、黒服のずんぐりした男が、コモン君を見張っている。
▼ 「ぼく」は郊外の借間へ戻るためにコモン君のアパートを出る。
▼ コモン君は「ぼく」を停留所まで送る。
▼ 「ぼく」は偶然、コモン君が植物になりそうだと言ってしまい、自殺した人間が樹になるというダンテの『神曲』に言及する。
▼ 「ぼく」は電車に乗り、コモン君と別れる。

●第8場面●

  【26】 247下
▼ コモン君は『神曲』を調べるため、近くの図書館へ行く。
▽ 植物になるのは自殺者への罰。
地獄に堕ちた人間は罪の意識を持たない。
罰だけがあって罪がない。
コモン君は、自分が知らぬうちに既に自殺してしまっていたのかもしれないと考える。
▼ 図書館の廊下。
顔を伏せて歩く、光をおそれる人々。
時間が停ったような静寂があり、あたりの人々が植物になるような感覚をおぼえる。
▼ コモン君は図書館の廊下を走り、受付の男につかまえられる。
▼ そのとき、例の黒服の男に見られているのに気づく。
黒服の姿は、(『神曲』に載っている)自殺者の樹をさいなむ怪鳥アルピイエに見える。
▼ コモン君は図書館から逃げ出す。

●第9場面●

  【27】 248下
▼ ある日、コモン君は町角でK嬢と大男に会うが、相手にされない。
▼ アパートの部屋で、K嬢からもらった手紙を燃やす。
▼ 手紙を燃やす火が、人間がゼウス一族と戦うためのプロメテウスの火に見える。
▼ そのとき、植物病の発作に見舞われる。
▽ 植物への変形はゼウス一族の仕業だと思い込む。
※ K嬢との恋にやぶれた悔しさを植物病の恐怖と結びつけることにより、ゼウス一族という敵を想像の中で設定した。
▼ ギリシア神話の本を入手し、ゼウス一族によって植物にされた人々の話を確認する。
▽ 植物への変形とは、ゼウスの奴隷たちの法律である。
・不幸と同時に幸福を奪われる。
・罪から解放されたかわりに罰そのものの中に投げ込まれる。
▽ プロメテウスの火がほしい。

●第10場面●

  【28】 249下
▼ コモン君は手紙を受け取る。

  【29】 249下
▼ H植物園長(黒服=アルピイエ)からの手紙。
▽ H植物園長は、コモン君がデンドロカカリヤであることを、コモン君よりもよく知っているという。
▽ デンドロカカリヤは、小笠原の母島列島のみに産する珍奇な植物で、内地では見られないはず。
▽ 夜の6時に訪問すると予告。

  【30】 250上
▼ アルピイエ(H植物園長=黒服)が、夜の6時にやってくる。
▽ コモン君にはアルピイエが、ゼウスの使いのように思われ、火を消しに来たのだと考える。
▼ コモン君とアルピイエの会話。
▽ アルピイエはティミリヤーゼフの「植物の生活」を読むようにコモン君にすすめる。
植物と動物との差異は質的なものではなく量的なものである。
▽ アルピイエは、植物とは現代のホープであり、現代の神々であると考える。
植物は精神分裂とアナロジーであり、ヒステリーが植物の信者となる。
▼  アルピイエの提案。
・H植物園の温室を提供する。
・そこは母島と同じ気候の極楽である。
・政府の保証つきである。
・そこには他にも、植物になった沢山の人々がいる。
▽ 幸福や不幸など役に立たないものであり、それよりも、ますます純粋に、豊富に存続しつづけるということが問題だ、とアルピイエは言う。
▽ 植物化に関するコモン君の見解。
・植物化とは、ゼウスの奴隷たちへのお情けである。
・植物化とは、アルピイエによって火を奪われ、不毛の罰に追い込まれることである。
▽ 植物に関するアルピイエの見解。
・植物こそロゴスの根本である。
・植物は新しい神話の神々であり、原・存在そのものである。
▼ アルピイエは出て行く。
▼ コモン君は3日も慄えつづけ、何をするべきか考えつづける。
▽ 植物病とは、ほとんどすべての人に隠されているものが、少数の人の場合にあらわになること。

●第11場面●

  【31】 252上
▼ コモン君は、アルピイエ(園長)を殺すためにH植物園へ行く。
▼ 緑化週間の花形の植樹デーの準備をしているアルピイエが、コモン君を迎える。
▼ 温室の植物たちが、コモン君を悲しみにつき入れる。
▼ コモン君はアルピイエを殺そうとするが、ナイフを取り上げられる。
▼▼ 連帯しなければアルピイエは亡ぼせない、と「ぼく」が言う。
▼ コモン君は植木鉢に乗せられる。
▼ コモン君は植物になる。
▼ 助手は植物になったコモン君を見て、「大したやつじゃなかったな」と思う。
▼ 園長(アルピイエ)は笑い、デンドロカカリヤの学名をラテン語でカードに書き、コモン君の幹に大きな鋲でとめる。

※ 関連項目

「安部公房「デンドロカカリヤ」における「顔」と「植物病」」→ http://42286268.at.webry.info/201502/article_6.html
「安部公房「デンドロカカリヤ」の改稿について」→ http://42286268.at.webry.info/201502/article_10.html
「『砂の女』と小説の地平――安部公房の小説について――」→ http://42286268.at.webry.info/201502/article_15.html

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