安部公房『砂の女』あらすじの表(3)第二章後半

安部公房『砂の女』
小説に書かれていることを、表のように整理しました。
あらすじとしてご参照ください。

【2020年5月9日追記】
この作業にもとづいた論文「小説という名の実験―安部公房『砂の女』論」を、文芸批評・文学研究の雑誌『文学+』第2号(凡庸の会、2020年)に掲載しています。
当該雑誌は1200円+送料です。下記フォームよりご注文ください(在庫切れの場合はご容赦ください)。
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【追記終わり】

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■■■ テキストの性格 ■■■
【【章】】
【節】
● 時間
▼ 出来事や行動。
▽ 出来事や行動以外。思考や過去の話など。
※ 備考。

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画像


■■■ 本編 (承前) ■■■


【【第二章 (承前)】】

  【23】

● 昭和36年(1961年)8月後半 ~ 9月下旬


▼ 片道切符のブルース。
▽ 「片道切符」と「往復切符」についての思考。
制度の中にとらわれた人間は、無責任に「片道切符」(流動)にあこがれる。(都会で暮らしていた頃の男もそうだった)
いまの男は、「往復切符」(定着)がほしい。
※ 以下のことが、解決されなければならない問題として、この時点の男の内部にある。
男は、現在の自分の置かれている状況を、砂という「流動」の中への監禁としてとらえている。
したがって男は「定着」を求めている。
ではその「定着」をどこに求めるかというと、男は、以前生活していた都会の制度の中にしか求められないと思い込んでいる。
つまり、砂の穴の中の生活を「定着」としてとらえる、という可能性は度外視している。
しかし、男は以前の都会の制度の中の「定着」に満足していただろうか。
もしこのまま都会の「定着」へと復帰したとしても、砂の穴の中と同じような義務と疎外が待っているだけではないだろうか。
――このような問題が解決されない限り、男は疎外されたままだろう。(そしてここから後、小説はこの問題をめぐって展開する)

▼ 脱出計画④ 脱出作戦
唐突にやってきた思いつき。
(※ 試行錯誤の成果はこのように、無意識や偶然によるもの
ロープの準備、情報収集と計画。

● 昭和36年(1961年)9月22日(金)

▼ 実行の前夜。
風邪をよそおってぐっすり眠り、女を疲れさせる。

● 昭和36年(1961年)9月23(土)

▼ 夕方に行水。体を洗いあい、興奮。
▼ 性交した後、女を眠らせる。
▼ 午後6時半頃、脱出作戦開始。
▼ 屋根にのぼって、砂の壁の上にロープを投げる。
▼ 試行錯誤の後に、偶然ロープを張ることができる。
※ 試行錯誤の成果の偶然性
※ 反復は無駄ではない。
▼ 「玩具の木登り猿」のようにロープをのぼる。
▽ すべてを「追憶の手帳」の「押し花」にできるだろう(過去として「定着」)と考える。
▽ 自分と女を、同じように「往復切符」にしがみつくしか能のない人間としてとらえる。
※ 自分が「定着」的な人間であることを認めている。
※ 男が女に「一緒に砂の穴を出て都会へ行こう」と誘っていたらしいことも読み取れる。

  【24】

▼ 地上に出る。
※ 「四十六日目の自由」……計算が一日ずれる(本当は45日目か、あるいは44日目でなければならないはず)が、男が砂丘へ来た日が8月10日であることは、曜日などから動かしがたいので、男の主観のせいで数え間違いが起こった(1日多く数えてしまった)と考えるのが、最も妥当だろう。
▼ 火の見櫓を気にする。
▽ もし火の見櫓の監視者に気づかれたら、半鐘を鳴らされるはず。
半年ほど前に逃亡しようとした家族の話を想起。
▼ 靄が出ている。
▽ 砂と湿気についての認識の更新。
▼ 逃げて、日が暮れるまで身をひそめるための適当な隠れ場所を探そうとする。
▼ 部落を見渡す。
▽ 「どれいの穴」の生活(反復)を思う。
▼ 鴉と出くわす。
▼ 部落の外れに出る。視界がひらけて海が見える。
▼ 掘立て小屋を見つける。おあつらえ向きの隠れ場所。
▼ 赤犬と遭遇。犬は去る。
▽ 「メビウスの輪」との内的会話(シミュレーション)――手段の目的化について。
▼ 自分の足の臭いを嗅ぐ。(※ 【10】の犬の毛屑の話に通じる)
▼ 小屋に入る。動物の臭いを嗅ぐ。
▼ 足の甲を何かが這うが、ハンミョウ属かどうかたしかめもしない。
▼ 砂丘の稜線が金色に輝く。
▽ ロマンチックな風景に「妖しいまでの人恋しさ」をおぼえる。
▽ 絵葉書屋の台詞のシミュレーション。
▽ 砂は「定着」の拒絶であり、その美しさは死の美しさである。
いくら男が砂を好きだからといって、「定着」することなく生きられるはずがない、と男は考える。
男は、これまではっきりとは自覚していなかった自分の固定観念を、再帰的に認識する――砂(流動)の中では生きられないはずだから、砂の穴から逃げるしかない。
※ しかし一方、男は都市生活の「定着」における義務や責任を厭うてもいる。
――この矛盾が解決されない限り、男は疎外感を克服することはできないはず。
▼ 日が暮れる。

  【25】

▼ 部落を通り抜けるべく出発。
※ どこまでも複雑なフラクタルのような砂。
▼ まるでどうどう巡り。(※ 男の試行錯誤の象徴)

▽ 女のことを想像。女に対する義務や責任は担えない。
※ 「定着」しないと生存できないと認識しながら、義務や責任を厭うという矛盾。
▽ 女の言葉を想起。
ラジオと鏡(ともに他人とのあいだの通路)を欲しがっていた女。
・ラジオは買ってやるつもり。
・鏡は砂の中では役に立たない。
▽ 女との会話を想起――家出した青年の話。
男はこの話を通じて、女に「一緒に砂の穴から出て行こう」というメッセージを送っていた。
しかし女はその誘いには乗らなかった。
※ 「定着」(それにともなう疎外)から逃げ出しても、また他のところに「定着」せざるをえない。
したがって、ただ逃げ出すことではなく、ある場所にどのように「定着」するか(そして疎外を解消するか)が問題になるはず。
男は、ともに脱出しようという誘いに対する女の不同意を、自分への拒絶と受け取った。
そのため、いま一人で脱出しようとしている。
※ 8月後半以来、男が女に「自分を解放してくれ」というメッセージではなく、「一緒に脱出しよう」というメッセージを送っていたことが、このエピソードから分かる。

▼ 計画どおりに進むことができていない。(※ 近視性)
▼ 高いところからの展望を得たい。

▽ 女を砂の穴に引きとめていたのは何だったのか、と恨みがましく考える。
女は、それにこだわった(そのせいで男と一緒に脱出しなかった)ために男を失うことになるが、女にとってその損害は大きい、と男は思う。
男も女と別れるのはつらい。
※ 男は、女も一緒に逃げてくれればよかったのに、と思っている。
男は、女に黙って一人で逃げていることに後ろめたさを感じつつ、結局は貸し借りはチャラだと思いたがっている。

▼ 方向転換する。

▽ 女の夫と娘の骨のことを想起。
一緒に脱出しようという誘いに同意を得られず、女を砂の穴に引きとめるものの正体を問いただしたとき、女は砂の中に埋まっているはずの夫と娘の骨の話をした。
男は骨をさがしたが、見つからず、口実にすぎないのだと悟った。

▼ いきなり部落の中に入りこんでしまう。
▼ 犬に迫られる。
▼ 部落の出口に向って走り出す。

  【26】

▼ 部落の中を突っ切って走る。
▼ 犬に襲われそうになるが撃退。
▼ あと一息で逃げ切れるというところで子供とぶつかる。
▼ 行手をさえぎられ、半鐘を鳴らされる。
▼ 路地を駈け戻って逃げる。
▼ 追手がコースから外れる。
▼ 海の方へ追いつめられていると思う。
▼ 人喰い砂にはまる。
▼ 助けを求める。
▽ 「浅ましい崩壊感」。
▼ 部落の者に助けられる。
▽ 完全に打ちのめされる。
▼ 掘り返され、人喰い砂から引き出される。
▽ 死のような敗北感。

  【27】

▼ もとの穴に下ろされる。
▽ まるで「埋葬の儀式」のよう。
▼ 女に迎えられ、寝床へ。
▽ 夢――逃げている。
▼ 水を飲みに起き、そのままタバコを吸う。
▼ 蜘蛛がランプの灯を利用して蛾を捕えるのを手伝う。
▽ 人間の燈火を前提とした習慣を持って生きている虫たち。
「法則」などというものが信じられなくなる。
▼ 眠る。
▼ 女のすすり泣きで目を覚ます。
▽ 哀れなものどうし、女のみじめなやさしさを感じる。
※ 一度死んでいるような状態なので、素直に受け入れられる。
▼ なぜ逃げたのか話す。(※ 自分の疎外論的認識を振り返り、その限界も知る)